冬の間に通販で買ったユスラウメの苗木が、春になって花をつけた。枝もなにも出てこずにいきなり幹から花が咲くとはまさか思わなかった。ユスラウメはなんと「桜梅」と漢字で書く。ぜったいに読めない。初夏にはさくらんぼのような実をつける木になる。デパ地下の生鮮食品売り場で野菜・果物のバイトを半年やったことがある。野菜はつまみ食いしなかったが、果物はこれでもかというくらい食べた。野菜と違って果物は毎週のように種類が変わって飽きることがない。バックヤードでは、傷んだものを捨てて、きれいなものをパッキングして値札を貼り、売り場に出す。並んでいるフルーツのなかにひとつでも傷んでいるものがあると他のも全部が古く見える。ラップがピンと張っていると絶対的においしそうに見えるし、たるんでいるとまずそうに見える。バックヤードでは入荷するまでに傷んだものは躊躇なく捨てた。果物でもっとも傷みやすくて捨てる量が多いのは「桃」であった。必然的に「桃」は浴びるように食べた。たぶん普通の人の一生分くらい食べた。桃の次にはアメリカンチェリーを大量に食べた。アメチェ(八百屋はそう呼んだ)は傷まないので捨てる部分はほとんどないのですが、つまみ食いしやすいサイズであったので、ものすごくたくさん食べた。毎日様々な国から野菜と果物が入荷してきた。南米からはるばるやってきたインゲンマメもあったし、2ヶ月前に収穫されたフィリピンバナナもあった。そんなある日、文字も絵もまったく何も書かれていない段ボール箱が入ってきた。生鮮食品を詰める箱になにも書いていないというのは本来あり得ないことなのですが、それは完全に無地の箱であった。箱をあけるとぎっしり「マツタケ」が入っていた。北朝鮮から北京経由で運ばれてきたマツタケであった。国交なんかなくてもマツタケはやってきた。八百屋のバックヤードは世界の縮図のようであった。
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