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2008年4月30日水曜日

大塚物語9「ふとん交換について」

大塚アパート(仮名)の管理人の最大の仕事のひとつは、6か月に一回の「布団交換の立ち合い」であった。大塚アパート(仮名)の各部屋は3畳の居住スペース、プラス1畳の寝るスペース(高さは半分)しかなかったので、布団は24時間セブンデイズ敷きっぱなしの万年床であった。布団は敷かれてから6ヶ月間そのままの形でそこにあった。あまりメジャーではないけれども世の中には貸布団屋さんという商売があって、大塚アパートには6か月に1回、貸布団屋さんがやってきた。貸布団屋さんが来る日は2、3週間前から住民たちに告知され、その日になるとアパートの住人はかならず出勤前に自分の布団を廊下に出しておかなければならなかった。布団交換は住人達の雇用主である警備会社が貸布団屋さんに依頼してとりおこなっていた。この日に布団を出し忘れると次に交換してもらえるまでさらに6か月待たなければいけなかったので、忘れる者は誰もいなかった。というより、その日を心待ちにしていた。人間は一晩に200mlの汗をかくので6か月分、つまり360kg分の汗やその他もろもろのエキスを吸いこんだ養分たっぷりの布団が10組廊下に並び、布団屋さんはそれを片っ端からトラックに運んで、代わりに新しい布団を置いていった。「不幸」は例えば地獄絵のように具体的に描けるけれども、「幸福」はビジュアルに出来ない、キリスト教会の天使の舞う天井絵を見ても別に幸せな気持ちにならない..という話を聞いたことがあるが、半年待ち焦がれた新しい布団は見た目はパリッと、触るとこのうえなくフワフワで、アパートの廊下の各部屋の前にキレイに積んである様子は「幸福」のビジュアルそのものであった。写真は柿の種を埋めたら生えてきた新芽。



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