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2008年4月28日月曜日

大塚物語7「床屋について」


大塚の街には酒屋と理髪店がやたら多かった。酒屋は大塚アパート(仮名)から半径300メートル以内に3~4軒あったし、理髪店はもっとあった。理髪店は入口に赤青白の回転灯があってレースのカーテン越しに中をのぞくと重厚な理髪イスが3つ並んでいるような原風景のような床屋さんであった。ゴーストライターはある日その一軒に入った。むかしながらの床屋さんは、ぎりぎりまで熱い蒸しタオルやヒゲのそり方や軽くやってくれるマッサージまで夢うつつになるくらい心地よいのであった。しかし整髪も終盤に近づいた頃異変は起こった。その理髪店に馴染みの客と思われる年配の男性が入ってきた。男性は耳の上のわずかな部分を除いて毛髪がなかった。男性は慣れた感じで理髪イスに深く座り、店の親父さんも慣れた感じで男性の髪の毛を切った。あんまり切るとなくなってしまうのでハサミを頭の周りでカシャカシャ動かしている感じであった。ひとしきり仮想頭髪をカシャカシャ切ったあと、親父はおもむろに「分け目はいつものとおりで」と男性に訊き、男性は「うん」と言った。分け目に当たる部分には毛髪は皆無だったが、親父はおもむろにクシを出して仮想頭髪に仮想分け目を入れた。すごかった。職人の極めた技であった。道を極めた達人は髪を切らずに散髪をするのであった。ゴーストライターは、男性が入っていた時に「金がもったいない」と思った自分を恥じたのであった。今日は「マントラ」の豆カレー。



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