イギリス在住で古い知人である若い日本人女性と話す機会があった。彼女の住むロンドンのスーパーでは日本の食材がどこまで手に入るか、という話をした。ゴーストライターや渡辺トモコが住んでいたカナダでもスーパーで日本の食材を探し求めた経験があり、興味ある話題であった。どちらの国でもトウフやダイコンはもちろんのこと、納豆やポン酢ショウユやカイワレダイコンまでちゃんとある。オタフクソースなんかもあった。ただし野菜や魚の生鮮食品は意外と限界が低くて、たとえばシタケとエノキはあって、シメジやマイタケは(少なくともバンクーバーのそのへんのスーパーには)なかった。
カナダのスーパーではレジでお金を払う前に商品を「食べる」ひとが少なからずいた。牛乳パックを開けて飲み、ポテトチップスを食べ、レジのひとは気にするふうでもなく開封されたパッケージのバーコードをピッと読み取り、ちゃんとお金は支払われるのであった。しかし問題はバナナであった。レジの人は食べかけのバナナを見て軽いため息をつき、「バナナを食べてはいけない、ビコーズ、私が重さを計れなくなってしまうから」と言い、食べたカナダ人は困った顔をして「オウ..」というのであった(彼等はこれくらいのことではソーリーとは言わない)。一見完璧に見えるスーパーの清算システムの盲点を突いた確信犯的犯罪であった。マイタケは渡辺トモコの作品の一部。